大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)15158号 判決

原告 ラルフ・エイ・フィールズ

右訴訟代理人外国弁護士資格者 トーマス・エル・ブレイクモア

同弁護士 三ツ木正次

同 牧野通晃

被告 株式会社 太平洋テレビ

右代表者代表取締役 清水昭

訴訟代理人弁護士 馬場東作

同 福井忠孝

主文

右当事者間のアメリカ合衆国カリフォルニア州ロスアンゼルス郡上位裁判所第九二九、〇九八号事件につき、同裁判所が、昭和四三年七月一六日言い渡した、

「被告は原告に対し、一三、三五〇米ドル、これに対する一九六四年二月一日以降七パーセントの割合による利息即ち四、〇一四米ドル四八セント、合理的な弁護士費用として一五〇〇米ドル及びアメリカ仲裁協会の手続費用として三六七米ドル、以上合計一九、二三一米ドル四八セントの支払をせよ。」との判決に基いて強制執行をすることを許可する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

「一、原告の請求を棄却する。二、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者双方の事実上の主張

一、請求原因

(一)、原告は、アメリカ合衆国市民であり、被告は日本法に基き設立された法人であるが、原告は、昭和四三年三月一日、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロスアンジェルス郡を管轄する同州の第一審裁判所であるスーペリアー・コート(本訴において便宜上「上位裁判所」と呼ぶ)に対し、アメリカ仲裁協会が原被告間の紛争につき同年一月八日になした仲裁判断を確認する判決および同判決の判決綴への登録を求める申立書を提出した。同裁判所は右申立により同裁判所第九二九、〇九八号事件につき同年三月二九日、「仲裁人の仲裁判断の確認及び判決の登録を求める申立についての審理の通知」と題する書面を書留航空便で被告に送し達同年四月初めころ、右書面は被告に到達した。

前記上位裁判所は、右事件につき、昭和四三年七月一六日、前記アメリカ仲裁協会の仲裁判断を確認し、「株式会社太平洋テレビ(本件被告)はラルフ・エイ・フィールズ(本件原告)に対し一万三、三五〇米ドル、これに対する一九六四年二月一日以降七パーセントの割合による利息即ち四、〇一四米ドル四八セント、合理的な弁護士費用として一、五〇〇米ドル及びアメリカ仲裁協会の手続費用として三六七米ドル、以上合計一九、二三一米ドル四八セントの支払をせよ。」との判決を言い渡し、この判決は、同月一七日同裁判所判決綴第六一八三冊九八ページに登録された。

同裁判所は、昭和四三年八月五日、「判決登録の通知」と題する書面を被告宛に送達したが、被告は八月五日より六〇日間の法定の上訴期間内に上訴せず、右判決は確定した。

(二)、カリフォルニア州民事訴訟法第一九一五条は「外国裁判所の確定判決は、その裁判所がその国の法律に基づいてその判決を与える管轄権をもっているならば、その判決が行われた国におけると同様の効力をもち、かつ当州において行われた確定判決と同様の効力をもつものとする。」と規定しており、我国の判決についても右規定によりその効力を承認するものと認められるから、民事訴訟法第二〇〇条第四号の「相互の保証」があるというべきである。

(三)、よって原告は、右確定判決により強制執行をするため執行判決を求める。

二、被告の答弁および抗弁

(一)、請求原因(一)の事実はすべて認める。同(二)の我国とアメリカ合衆国カリフォルニア州との間に民事訴訟法第二〇〇条第四号にいう相互の保証があるとの主張もこれを争わない。

(二)、本件外国判決は、アメリカ合衆国カリフォルニア州に本店を有するナショナル・テレフィルム・アソシェーツ・インコーポレーテッド社(以下N・T・Aという。)がリブラリ・アシェットの代理人として、日本の放送局をしてテレビ映画(題名「テインテイン」)を放送せしめるについて昭和三八年三月二九日締結し、後に原告が右N・T・Aに代ってリブラリ、アシェットの代理人となった契約に関しなされたものであるところ、後述するとおり、被告は当時右のごとき役務契約を締結し得る輸入業者となり得なかったものであり、右契約に基く外貨の支払をなすこともできなかったのである。したがって、本件外国判決の強制執行を許可することは、外国為替および外国貿易管理法(以下外為法と略称する。)第二七条違反の行為を許容することとなり我国の公の秩序に反するものである。よって本件請求は民事訴訟法第二〇〇条第三号の要件を欠くものとして棄却せらるべきである。

被告は外国のテレビ映画製作業者ないし配給業者とそれぞれ日本における代理店契約を締結し、外国テレビ映画の日本における放映に関し日本の各放送局と外国テレビ映画製作業者ないし配給業者が契約を締結するについてその日本における代理人として関与する業務を営みこれによって外国のテレビ映画製作業者ないし配給業者から一定のコミッションの送金支給を受けていたものであるところ従来大蔵省外国為替管理局はテレビ用外国映画の上映権にかかる役務契約の許可はテレビ放送局に対してのみ与えてテレビ放送局に外貨割当を行なって来ており我国の放送業界では、各放送局のみが外貨割当を受けその割当外貨の範囲内で役務契約を締結した外国業者に外貨を支払い得るものであり被告のごとき代理店は、外国テレビ映画を輸入するための外貨支払の割当を受け得ないのである。

以上の次第であるから、前記テレビ映画放映についての契約もフジテレビとN・T・Aとの間に締結されたもので、フジテレビから右契約に基き一三、三五〇米ドルがN・T・A宛送金支払われているのである。

三、抗弁に対する原告の反論

(一)、本件外国判決が被告主張の契約に関しなされたものであることは認める。尤も右契約締結に関し被告がN・T・Aの代理店として関与したとの主張は否認する。右契約はN・T・Aがリブラリ・アシェットの代理店として、被告との間に、被告に対し前記テレビ映画の放送を許諾し被告はN・T・Aに右許諾料を昭和三八年五月から同三九年二月まで四回に分割して支払う契約を締結したのであり、被告主張の送金支払も被告からN・T・Aに対しなされたのである。

(二)、ところで右契約は外為法第四二条にいう「役務に関する契約」であり、外国為替管理令(以下外為令という)第一七条第一項第一号の適用を受けるものであるが被告は同令同条第二項により主務大臣の許可を受けることができたのであり、右の許可を受ければ同令第一一条第二項の規定により支払をすることができたのである。

被告主張のごときテレビ用外国映画について大蔵省当局において「輸入方針」ないし取扱基準を定めていたとしてもそれは行政官庁が内部的に定めたものに過ぎないのみならず、遅くとも昭和三九年四月頃には、右はすべて撤廃されて全く自由かつ無条件に許可されているのである。したがって今日においては被告は容易に主務大臣の許可が得られるのである。自ら許可を受くべき義務を怠りながら、許可を得られないことを前提とする抗弁をなすごときは信義誠実の原則ないしクリーンハンドの原則に反し許されるべきものではない。

(三)、しかのみならず、民事訴訟法第二〇〇条第三号の規定は、外国判決により確定された権利関係自体が日本において認めることのできない性質、種類のものであってはならないことを意味し紛争解決の結果たる判決の主文の内容だけが問題となるのであり、理由に立入るべきものではないところ、本件外国判決は、単なる金銭給付を命じたにすぎないから何ら日本の「公の秩序」に反するものでない。

仮に判決主文の内容のみについて判断すべきであるとの右主張が容れられないとしても、前記N・T・Aと被告との間の契約は外為令第一七条第二項の主務大臣の許可を得ずして締結されたことは外為法及び外為令に違反するの故をもってその私法上の効力には何ら影響がないのであるから公の秩序に反するものとはいえないのである。

第三、証拠の提出、認否≪省略≫

理由

一、請求原因(一)の事実はすべて当事者間に争いがなく、右の事実によれば原告主張のとおりの外国の確定判決が存するものというべきである。しかして、アメリカ合衆国カリフォルニア州においては日本国裁判所が日本国の法律に基き裁判管轄権を有するときは、日本国裁判所のなした確定判決の効力を承認するものと一般に認められているから民事訴訟法第二〇〇条第四号の「相互の保証」があるというべきである(このことは被告においても争わない。)。

二、そこで民事訴訟法第二〇〇条第三号の要件を欠くとの被告の主張について判断する。

ところで、外国判決の既判力および形成力の認められることを前提し、その執行力を認める条件の一として民事訴訟法は第二〇〇条第三号をもって我国の公序良俗に反せざることを要するものとするところ、右要件の充足の有無は、当該外国判決の主文によってのみ審査すべきか否かについて解釈上争いが存するのであるが、当裁判所は、右判決主文のみならずその導かれる基礎となった認定事実をも考慮しなければならないものと解するのが正当と考える。尤も、当該判決の認定していない事実をも斟酌することは、もはや外国判決を承認しないことにほかならないから許されないことはいうまでもない。よって、この見地において本件をみる。

≪証拠省略≫によれば、本件外国判決は、アメリカ仲裁協会が原被告間の紛争解決につき示した判断を確認し被告に原告主張の外貨支払を命じたものであるが、右仲裁判断はテレビ用外国映画の我国内における上映権に関し被告がリブラリ・アシェットの代理人となったN・T・Aにライセンス料を支払う契約が成立したものとして、これを前提として右契約に関する紛争解決につき判断を示したものであることは明らかであり、右認定せられた契約が外為法第四二条外為令第一六条にいう「役務に関する契約」に該当することはいうまでもない。そして、被告とリブラリ・アシェットないしN・T・A間において右のごとき契約を締結することは外為令第一七条第一項第一号所定の場合に該当するから同令同条第二項による主務大臣の許可を受けなければ、契約を締結し、契約に基く支払をなし得ないものとしなければならない。しかるところ、≪証拠省略≫によれば、被告は昭和三八年当時、契約の締結について許可を得たことのないのは勿論、当時テレビ用外国映画の上映権にかかる役務契約の締結に関する主務大臣の許可はテレビ局に対してのみ与える取扱いで、したがって、テレビ局ではない被告は右の許可を得られるものではなかったこともこれを認めることができ右認定に反する証拠はない。

してみれば、被告が右契約に基き外貨支払をなすべきものとすることは、外為法に違反するものといわねばならない。しかしながら、対外取引をなすことは本来自由であるべきものであって、外為法が対外取引契約ならびにこれに基く外貨の支払について制限をなしているのも国民経済の復興と発展に寄与することを目的として暫定的に制限しているに過ぎない(外為法第一条、第二条参照)のであるから、前記仲裁判断の前提となった契約およびこれに基く外貨の支払が外為法に違反し刑事責任を生ずるからといって、公の秩序善良の風俗に反するものとすることはできない。

なお、被告はN・T・Aの代理人としてフジテレビと契約したのであって、N・T・Aと契約したのではないというのであるが、本件外国判決の基礎とせられた事実と反する右のごとき事実は前記要件の審査に当り斟酌すべきものでないこと前記説示のとおりである。

しからば、本件外国判決は公序良俗の要件においても欠けるところはないものといわなければならない。

三、以上のとおりであるから原告の請求は理由があり、正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言は相当でないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 田畑常彦 江見弘武)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例